ぼくは、もうじきおにいちゃんになる。
まだ茶色いけれど、もう羽も生えそろっている。
でも、とぶのはへたくそなんだ。
弟妹の面倒を見る水鳥バンの“おにいちゃん”
飛ぶ練習をし、巣作りや餌集めを手伝い、ときには天敵から弟たちを守る。
“おにいちゃん”が成長する姿をやわらかくも力強く描いた版画の絵本です。
「ねえ、お母さん、おなかすいちゃった。
いっしょに食べに出かけようよ」
「お母さんは、今日からたまごを、あたためないといけないの。
ひとりでさがしに行っておいで。もう、おにいちゃんなんだから」
このごろいつもこれだ。
「もう、おにいちゃんなんだから」って。
ぼくは、さっそく草をはこんだ。
それなのに、お母さんにもおこられた。
「もうちょっと長いのをもってきてちょうだい。みじかすぎるわ」
それから、
その日はずっと草あつめをした。
夕方、お父さんが、よくがんばったなと、
おいしいミミズをくれた。
その間、ぼくは、ひとりでずっととぶれんしゅうをしていた。
羽をバタバタさせながら水の上を走る。
でも、そこからとびたつのはむずかしい。
お父さんみたいにカッコよく
とびげりしたいなあ。
いちばん大きく口をあけたヒナに、
お父さんが、やわらかい草をあげた。
もらいそこねた、ほかのヒナは、まだ大きな口をあけている。
ぼくも水草をとってきてあげてみた。
そうしたら、すぐに1羽がパクッとのみこんだ。
ぼくがあげた草、ちゃんと食べてくれたよ。
クイナ科の水鳥「バン」は、公園の池や湖の岸辺など、私たちの身近な水辺で生活しています。でも、わりと臆病な鳥で、あまり人前に出てきてくれないので、見たことがある人は意外と少ないかもしれません。バンでは、最初に巣立った幼鳥(この絵本では“おにいちゃん”)が新しく生まれたヒナたちの世話をするというちょっと変わった生態が知られています。この絵本は、そんな実際の生態をもとに、著者の観察や監修チェックを得て完成しました。絵本の巻末には監修者、上田恵介先生による解説文も掲載しています。
「パンダやキリンやゾウ―、そんな、遠い外国に生息する動物や動物園の動物たちだけでなく、日本の身近にいる生き物にも目を向けてほしい」そんな想いから誕生したのが『はばたけ!バンのおにいちゃん』です。バンという生き物を知らない人にも楽しんでもらえるように、「単純にお話として読んでおもしろい絵本」「お話としておもしろいだけでなく、背景にある生き物の生態や環境はしっかり嘘のない絵本」を目指しました。主人公のバンの“おにいちゃん”の奮闘ぶりをご堪能ください。そして、この絵本を通して、身近にもちょっと変わった生き物がいることを知ってほしいと思っています。さらに、この絵本をきっかけに身近な生き物にもっともっと興味を持ってもらえるとうれしいです。